大学の医局から若い医者を市中病院に派遣する。そうすることによって、その病院を系列化する(学閥を作る)のは、医局ヒエラルキー構造を強化する常套手段である。若い医師の場合、「喜んで」とはいかないにしても、たとえば二年間の辛抱(また大学に戻ってこられる)ということでお勤めを果たす。教授の命令なら、そうせざるをえない。だが、Hの場合は若い医者とは話が違ってくる。後輩がすでに頭越しに助教授になってしまった。彼が大学病院に復帰する道はほぼ閉ざされた。これはもう片道切符の出向なのである。「S教授もほとんど研究実績なんがなくて、前の教授にごまをすりまくって権力を握ったのだ。つまり、学問的にはあまり自信がないのだよ。それで、同じタイプのHがもし助教授になると、医局の研究レベルががたがたになってしまうという危機感があったのだよね。だから、地味だがこつこつと勉強するMを助教授にしたのだよ」ということらしい。そして「Hが、それこそSの靴底でも舐めんばかりにごまをすりまくっていたときは、「なんだ、あいつ」と不愉快に思っていたけど、こうなってくると、なんだかかわいそうな気もするわけよ。でもまあ、けっきょくHは、それだけのタマだったということだけどね」今回のクラス会の日程は、二十周年記念ということもあって、昨年のうちから決まっていた。当時まだ大学病院に籍があったHは、堂々助教授として、この会を取り仕切りたかったのだろう。それで、幹事役をかってでていたが、状況急変にもかかわらず、成り行き上、司会進行役を務めなくてはならなかったという話なのかもしれない。心なしか、元気がないように見える。